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欧米のスーパーサプライヤーたちが日本を足場に、将来は世界でもっとも有望視されているアジア市場進攻のための布石として、国内のサプライヤーを脅かすのではないかという不安を解消するため、本体が強力な後ろ盾になったのではないか。
GM系のデルファイが、ルノー色が濃いヴァレオが、ドイツのボッシュが、国内のサプライヤーにさまざまな合従連衡を働きかけてきた時期と重なる。
それはまた、折しも日本を巻きこんだ自動車メーカー大再編のうねりが押し寄せてきた時期でもあった。
トヨタは主な系列に大物の人材を送ったことにより、王国をよりいっそう磐石なものにした。
それまでは人も出さず、口も出さない自由放任主義でいくのかと思ったが、それはとんでもない見誤りであった。
「いったん何かキナ臭いことが起こったら、トヨタは総力をあげて防戦しますよ。
トヨタ系列は株価が高いけれど、それを買い増ししてでも受けて立ちます」奥田はそうも語ったことがある。
それにしてもトヨタの系列統治手法は世界の流れと逆行しているかにみえる。
GMはデルファイ株を売却し、フォードはビステオンを切り離すという話もある。
これらの外資と日産系列とでは事情が違うが、日産系の中にはしだいに日産カラーがうすれていくサプライヤーが現れ始めた。
一一四五社を六〇〇社までに絞るというゴーンの方針もあるが、理由はそれだけではあるまい。
二十一世紀を生き残ろうと思えば、部品業界も本体だけに依存していたのでは心もとない。
世界標準についていこうといった考え方ではふるい落とされてしまう。
自社の強味を生かし、先進の技術を生み出していくくらいの気概がなければ負けである。
ゴーンが系列に促していることの中には、おそらく次のようなコメントがかくされていたのではなかっただろうか。
「一蓮托生なんてごめんだよ。
品質はもちろんだが、価格でも国際競争に勝てる製品を造ってほしい。
それができる会社からは今まで以上に多く買いたい」トヨタと日産は互いに創業以来の宿敵同士といわれながら、ふり返れば正反対のことをやっている。
こんどもまた系列をめぐって異なる道を走りだしたかのようにみえる。
どちらの道がよかったのか、その答えは今すぐにはでてこない。
系列廃止がもたらした失望と狼狽NRP(日産リバイバループラン)が発表されたとき、ゴーンの口から出た衝撃的な内容は、国内だけでなく同時に世界じゅうをかけめぐった。
「日産の……」というより、欧米人からみて閉鎖的でなんともならない日本のケイレツ取引というビジネス慣行に、果敢に破壊のクサビを打ちこんだことが大きな話題をよんだ。
「日産は一三九四社もの株式を保有しています。
しかし四社だけを除き、あとは会社の金庫に入れておいても致し方ありません。
一三九〇社の株式は手離します。
また一一四五社ある部品や資材の調達先は、二〇〇二年までに六〇〇社に絞ります」これには関係者の大半が息をのんだ。
絶句したものもいれば、中にはその夜はいくら飲んでも酔えなかったり、早々と布団をかぶって家人を心配させた人もいたと聞く。
「まさか……は、やっぱり…・:だったか」「そんなこと本当にできると思うか。
だいいち、ここはフランスとちかってシャボンという国なんだぜ」専門家や業界関係者からさえ異なる感想が聞かれたほどだ。
トヨタの会長奥田碩にしても記者の質問にこう答えている。
「思い切った内容だが、あれだけ数が多いと実行するのは困難ではないか」しかしそこは「コミットメント」(約束した目標は必達すること)を信条とするゴーンのこと、現にルノーのスピード再建ですでに実証ずみである。
ちなみに九六年におけるルノーの決算は、日本円に換算してI〇六〇億円の赤字であった。
それを翌九七年には約四〇〇〇億円のコスト削減とリストラ効果によって黒字体質へと転換させ、九八年は一七三〇億円の純利益(税引後)を計上したのである。
ところで、四社だけを除く他の一三九〇社の保有株式売却の、第一の目的は日産の二兆五〇〇〇億を超える有利子負債削減であろう。
あくまでもそれは一過性の措置であり、資本のつながりとビジネスとは関係ないという冷徹な考えに基づくものである。
「資本的な縁は切れでも取引きは続けていくよ、と言ってくれるならよいが……」そう嘆息を洩らした下請けの社長は一人や二人ではなかった。
中にはたとえ日産が株式を売却しても、自社が保有する日産の株式は最後のさいごまで手離さないと言い張る系列の社長も大勢いた。
そうは言っても近い親せき筋に当たる日立の株式でさえ、二〇〇〇年度のうちにコー○○万株以上売却し、いま日産の手元に残っているのは二〇〇万株だけである。
株式売却は日産の台所事情を考えれば止むを得ない面がある。
「どうか当社の株だけは手離さないで……」など言えるわけはない。
問題は納入業者の数を約半分の六〇〇社に削るという言言のほうがよほど怖い。
「品質を落とさないで、どうやって二〇%ものコスト削減ができるのか。
死ね、と言ってるのと同じじやないか」中小の専属業者の中には吐き捨てるように言った人もいた。
先代どころか祖父の代から日産へ出入りし、無理を頼んだり頼まれたりした業者もいる。
一族みんな、骨の髄まで日産のDNAがしみこんだような人も珍しくない。
彼らにも自動車産業がグローバルな大競争にさらされていることくらいはわかっている。
しかし多くの人の中にはすぐに割り切ることができない感情が彭積していたのも事実である。
それが「お互い、つき合ってきた仲よしやないか」という、いかにも日本的な情実としがらみの感情である。
それをバッサリと斬れる人は、やはり日本人には多くはないだろう。
ゴーン流の子育てで英才は育つか日産宝会という部品メーカーでつくる協議会のような団体があった。
有り体に言えば協議会というよりは親睦会か仲良しクラブといったほうが当たっているかもしれない。
ここに加盟している系列企業は、とくに日産への依存度が高い、よりすぐりの会社ばかりであり、かつては日産本体の発展とともに栄えていった歴史の長い団体である。
その中でも宝会御三家ともよべるような会社がある。
それは日産本体の部品部かと思われるくらい、切っても切れない系列の糸で結ばれていた。
本体との人的つながりはもちろん、株式の持ち合い、納入比率の高さ、納入額の多さも群を抜いている。
ユニシアジェツクス(旧・厚木自動車部品)、カルソニック(旧・日本ラジエーター)、カンセイ(旧・関東精器)の三社がそれである。
国内的にみれば三社ともスーパーサプライヤーとよべるもので、いずれも東証一部上場企業であった。
もしもこれら三社が、二〇〇二年までに峻別される六〇〇社から外されると仮定したらどうなるか。
間違いなく企業として存続することはないと言ってよい。
なんだかんだといっても日産の分身みたいなものだ。
しかしだからといって、日産ゴーンがこれらの系列だけを特別扱いするわけはない。
大手だからこそ逆にきびしい要求を突きつけられることのほうが多い。
長い歴史のつながりから、これからの取引において匙加減されることなどもうあり得ない。
たとえ各社の社長が日産出身者であろうと、もはや情にからんで手心が加えられることはいっさいない。
「系列がいつまでも金魚のフンであっては困る。
はやく自立して、体力を失った日産を逆に支えてくれないと困るんだ」ゴーンの本音はそこにあった。
さすがに旧宝会の御三家だけのことはある。
彼らはNRPが発表される以前から脱・ケイレツの道を探っていた。
なにも日産離れをしようというのではない。
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